民主教育協会誌 『現在の高等教育』 No.477 (2006年1月)
はじめに
建学の精神と学長の夢
いまのような競争的環境においては、大学の個性や独自性が重視され、建学の精神に基づく明確な教育ヴィジョンを持ち、それを外に示すことが必要とされる。本学の創立者、津田梅子は、「真の教育」とは学
生に知識を分配するのではなく、学生が考える力、自立するために必要な実力を身につけることを助けるものだとの信念に基づいて、次のような目標を掲げた。
(1)教育には優れた教員と意欲ある学生が大切である。
(2)学生の個性を尊重するために少人数教育を重視する。
(3)高度な英語教育を施し、女性の英語教員を養成する。
(4)高い専門性を習得し、広い教養、国際性を身につける。
本学が創立された105年前、創立者は、このような明確なヴィジョンを提示したわけであるが、この教育理念は、現代に求められる理念とあい通じる性質を持っている。本学の場合、20世紀のはじめに示された教
育理念が、21世紀にも生きているという現代性を持つものであるため、この理念を教職員が共有しやすいことは、きわめて幸いである。
そのうえで学長の果たすべき役割は、建学の理念に基づき、その伝統を守りつつ、さらに次の100年を見据えた中長期的な展望を持つ新たなヴィジョンを提示し、そのヴィジョンの実現に向かって前進する明確
な姿勢を示すことである。教育について、あるいは大学に関して、夢を持ち、夢を語る学長でなければならない。自分が学長である大学が、10年後、20年後、そして100年後に、どのような姿であってほしいか、
どのように社会に貢献したいか、それを多面的に思い描くことができなければ、そしてその夢を学生や教職員と共有できなければ、目先の改革に関してすら舵取りをすることができないのではないだろうか。どん
な時代にも、豊かな教育を受け、それを活かして世界に貢献する卒業生を輩出することが、大学の使命、学長の役割であるのだから。
そこで重要なことは、学長の夢を学内、学外に向けて発信し理解を得ることである。今の情報化の時代には、ウェブを始め種々の方法で情報を伝達することが可能であるが、小規模の大学の場合は、学長が教授会
の場で自らの意見を述べ、教職員の意向をじかに知る機会があるという点が利点かもしれない。ただし、小規模の大学でも、情報を的確に発信すること、そしてそれが正しく理解され共有されることは簡単なこと
ではないと、自分自身の短い経験から感じている。
経営者としての手腕
夢を持ち、夢を語り、それを発信する、そして理解されることを確認するだけでは、大学は生き残ることはできない。夢の実現に向けて、現実的で鋭敏な経営者としての資質が要求される。経営基盤が確立してい
なければ、いかに魅力的なヴィジョンを掲げても、その実現は不可能であり、学生が得るものは十分とはいえない結果になる。
津田梅子は、津田塾大学の前身である女子英学塾を創立する以前にすでに、自身が経験したアメリカ留学の機会を他の日本人女性にも与えたいと願い、アメリカで日本の女性について講演することで支持者を得、
留学のための奨学金を確保した。そしてさらに、女性が自立するために高等教育機関が必要であることを訴える講演をし、要請の書簡を送って、塾創立にあたって経済上の支援者を得た。女性が大勢の前で話すと
いうことが、日本ではもちろんのこと、アメリカでも、女性らしさの観念からはほど遠いとされていたときに、そのような努力をしたのである。
また2代目学長、星野あいは、図書館建設の基金集めに東奔西走し、草履を何足も履きつぶしたといわれる。図書館を設立するに十分な基金を確保するまでの2年間に星野が訪問した商社や事務所は三百数十を
越えたと記録されている。
こういったカ-それは戦略的な力というより、むしろ熱意そのものであろう-が学長に求められるという点で、大学が競争的資金の獲得などに力を注入しなければならない現代は、大学創立期ときわめて類
似しているといえよう。
支援者
加えて、経営において、学長には判断力と決断力がなければならない。現代では、その判断力の大きな部分が情報収集の成否にかかっている。ということは、学長の大学運営には、大学内部および外部に専門的
な力を持つ助言者が必要だということになる。つまり、学長は、助言に耳を傾ける人でなければならない。心地よい助言だけが耳に入る「裸の王様」にならないよう、苦言にも耳を傾ける姿勢が重要である。
津田梅子には、多くの支援者がいた。とくにアメリカには、彼女の夢の実現を支援する人びとがいた。留学のための奨学金を作った人びとは、彼女の願った女子高等教育機関を創立する資金を、募金によって集
めてくれた。また創立された新しい塾では、第2次世界大戦のために帰国を余儀なくされるまで、40年にわたって教員として無給で彼女を助け塾の発展に尽くしたアナ・ハーツホンをはじめとする、アメリカ人もい
た。梅子自身にいささかの私心、私利私欲もなかったことが、多くの支援者を得られた理由だと推察できるが、それは、まさに現代の学長にも共有されるべき資質であろう。
「支える人」として
教育においても経営においても、学長の力には限りがあり、学長補佐や事務局長をはじめ、教職員が情報を共有し、大学の目指すところに向かって協力することが必要であることは言うまでもない。そこで重要
なのは、教育・研究の目的が何であるかを認識し、信念を持って理想の実現に情熱を燃やす学長が、教職員の力を活かし、学生の力を伸ばす仕組みを作ることであり、それはすなわち、教職員や学生との豊かな関
係を築くことであろう。その前提として、学長が自らの大学に誇りを持ち、大学のため、学生のため、教職員のために全力を尽くそうという熱意を持っていなければならない。
建学以来、大学を支えてきた多くの人びとのあとに続き、また、その「支える人びと」のひとりになって、さらに大学の未来を支える人びとを生み育てようという気概、つまり「大学を支える」気概が、学長には
何よりも大切である。
※『現在の高等教育』 No.477 (2006年1月 民主教育協会(IDE)発行)に寄稿したものを、民主教育協会の許諾を得て掲載しました。
津田塾大学で留学生活を送り、本国に帰国する学生たちを見送るためのパーティに出席し挨拶。本国へ帰国してからも津田塾大学での経験を活かし、ぜひ活躍の場を広げて欲しいと思います。
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日本経済新聞の取材を受けました。
担当記者は、かつて私のアメリカ文化セミナーを受講した本学の卒業生でした。記者として活躍している姿を見て、とても嬉しく思いました。
※この記事は「新聞・雑誌への寄稿文」のカテゴリーにてご覧いただけます。
「私立大学における教学運営―FD活動とその一環としての教員評価の実践方策」というテーマでの講演会、シンポジウム、ディスカッションに参加。他大学の学長と意見交換をし多くを学ぶことができました。
また、3月に清泉女子大学、日本女子大学、東京女子大学、津田塾大学の4校で女子大連盟東京地区のワーキンググループとしての活動を開始することになりました。
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